プライマリー市場とセカンダリー市場という「階層」に加えて、市場には「取引形態」の違いが存在します。それが「相対取引(OTC)」と「取引所取引」です。
取引形態1:相対取引(OTC: Over-the-Counter)
「相対取引(あいたいとりひき)」は、売り手と買い手が「1対1」で直接、または仲介者(ブローカー)を通じて交渉し、価格、数量、決済方法などを個別に決定する取引形態です。現在、国際的なVCM(ボランタリー・カーボン・マーケット)取引の大部分は、このOTCが主流です。
- メリット:
- 柔軟性: 多種多様なクレジット(第4章の「除去」や「コベネフィット」付きなど)を、特定のニーズに合わせて売買できます。
- カスタマイズ: 長期の大口契約(後述のオフテイク契約)など、柔軟な契約が可能です。
- デメリット:
- 価格の不透明性: 取引が非公開なため、提示された価格が「適正」なのか判断が困難です。
- 探索コスト: 希望するクレジットを持つ売り手(または買い手)を自ら探す手間がかかります。
- 流動性の欠如: 買いたい時に、都合の良い売り手が見つからない可能性があります。
取引形態2:取引所取引(Exchange)
「取引所取引」は、特定の取引所(例:日本の東証カーボン・クレジット市場)が、標準化されたクレジット(例:J-クレジットの「省エネ」「森林」などの区分)を上場させ、多数の参加者が売買する形態です。
- メリット:
- 価格の透明性: 株式と同様に、需給を反映した市場価格がリアルタイムで公示されます。
- 効率性・流動性: 取引相手を探す必要がなく、迅速な売買が可能です。
- 信用の担保: 取引所が決済(お金とクレジットの交換)を仲介するため、取引相手の信用リスク(代金未払いなど)を懸念する必要がありません。
- デメリット:
- 商品の標準化: 取引される商品(クレジット)が標準化されているため、「特定のコベネフィット」を持つニッチなクレジットなどは調達しにくい場合があります。
市場を構成する主要プレイヤー
これら2つの市場・2つの取引形態は、以下のプレイヤーによって動かされています。
- プロジェクト創出者(Developer / Originator):
クレジットの源泉です(例:森林組合、省エネ設備導入企業、再エネ事業者)。 - 仲介事業者(Intermediaries):
市場の「潤滑油」であり、極めて重要な存在です。
- ブローカー(Broker): 売り手と買い手を「仲介」し、マッチング手数料を得ます。在庫(リスク)は持ちません。
- トレーダー/卸売業者(Trader / Wholesaler): 自らの資金でクレジットを(プライマリー市場などで)大量に買い付け、在庫として保有し、価格変動を見ながらセカンダリー市場で販売します。日本の大手商社や金融機関の多くが、この機能を担っています。
- 最終需要家(End User):
クレジットを「利用(償却)」するために購入する事業者です(例:GXリーグ参加企業、SBT目標を持つ企業、カーボンオフセット製品を販売する企業)。 - インフラ提供者(Infrastructure):
市場の土台を支えます。
- 認証・発行機関(Standard / Registry): クレジットの品質を担保し、発行・管理する機関(例:J-クレジット制度事務局、Verra、Gold Standard)。
- 取引所(Exchange): 流通市場を提供する機関(例:東京証券取引所(JPX)、シンガポール(CIX)、米国(CBL)など)。