これら2つのリスクに対し、国際社会は急速に「規制(ルール)」の整備を進めています。もはや「自主的な配慮」ではなく、「厳格なコンプライアンス」が求められています。
事例1:EUの「グリーンクレーム指令(GCD)」と企業の「主張」規制
最も象徴的なのが、欧州連合(EU)が導入を進める「グリーンクレーム指令(Green Claims Directive)」です。これは、類型2(企業の主張)のリスクに対する強力な規制です。
- 主な内容:
- 企業が「カーボンニュートラル」「CO2ポジティブ」といった環境主張(グリーンクレーム)を行う際、第三者による事前検証を義務化します。
- 最大のインパクトは、「カーボンクレジットによるオフセットのみに依存した環境主張(例:『CO2ニュートラル』)を、原則として禁止する」方針が示された点です。
- これは、「自社での削減努力こそが本質であり、オフセットは補完でしかない」という原則を法制化するものです。
- 影響: オランダや英国の広告基準局(ASA)は、すでに航空会社やエネルギー企業の「サステナブル」「カーボンニュートラル」といった広告を「消費者に誤解を与える」として差し止める事例が相次いでいます。
事例2:ICVCMと「CCPラベル」による「品質」の選別
類型1(クレジットの品質)のリスクに対しては、市場自身が自主規制機関を設立しました。それが、第4章でも触れた**ICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market、民間カーボン市場健全性イニシアチブ)**です。
- 役割: ICVCMは、ボランタリー・クレジットの「品質」を担保するための厳格な基準「CCP(Core Carbon Principles、中核炭素原則)」を策定しました。
- CCPラベル: 2024年以降、既存のクレジットがこのCCP基準(追加性、永続性、MRVの堅牢性など)を満たすかを評価し、「CCPラベル」を付与する作業を進めています。
- 影響: 今後、グローバル市場では「CCPラベル付きクレジット」が「高品質」の標準となり、ラベルのないクレジット(=低品質の疑い)は価格が下落し、市場から淘汰される「品質の二極化」が急速に進みます。
事例3:VCMIと「CCoP」による「主張」の格付け
ICVCMが「クレジットの売り手側(品質)」のルールであるのに対し、企業の「買い手側(主張)」のルールを定めたのが、**VCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative、自主的カーボン市場健全性イニシアチブ)**です。
- 役割: VCMIは、企業がクレジット活用を「正しく」主張するための行動規範「CCoP(Claims Code of Practice、主張の実践規範)」を公表しました。
- CCoPの核心:
- 企業は「前提」として、SBTiなどに準拠した社内削減目標を公表し、その達成軌道に乗っている必要があります。
- その上で、高品質なクレジット(ICVCMのCCPラベル付き推奨)を活用することで、「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」という3段階の「貢献」クレーム(主張)が可能になります。
- 影響: VCMIは、「削減努力なきオフセット」を明確に否定しました。企業のクレジット戦略は、「削減」と「貢献(クレジット)」の2階建てで構築することが国際標準となりました。