企業がクレジットを調達する際、これらの市場構造を理解した上で、自社の「目的」に応じて最適なチャネルを選択する必要があります。
調達チャネルA:ブローカー/商社経由の「相対取引(OTC)」
これは、最も伝統的かつ柔軟な調達方法です。
- 適用ケース:
- 第4章で学んだ「コベネフィット」が豊富な、特定のクレジットが欲しい場合。
- 自社のブランドや理念と親和性のあるプロジェクト(例:国内の特定の森林、自社工場が立地する地域の活性化)を指定して調達したい場合。
- **長期購入契約(Offtake Agreement)**を結びたい場合。
専門家の視点:戦略的調達としての「オフテイク契約」
「オフテイク契約(Long-term Offtake Agreement)」は、プライマリー・マーケットにおける非常に高度な調達戦略です。
これは、プロジェクトがまだクレジットを創出する「前」(計画段階や開発初期)に、買い手(企業)が「将来、そのプロジェクトが創出するクレジットを、X年間にわたりYトン、Z円/トンで買い取る」ことを「事前」に約束する契約です。
- 創出者のメリット: 将来の収益が確定するため、金融機関からの融資(プロジェクト・ファイナンス)が受けやすくなり、プロジェクトが実現します。
- 購入者のメリット: 将来の価格高騰リスクをヘッジし、高品質なクレジット(特にSBTネットゼロ対応の「除去」クレジット)を長期かつ安定的に確保できます。
Microsoft社やApple社が、米国のDACCS(直接空気回収)プロジェクトと結んでいる巨額契約は、この代表例です。
調達チャネルB:「取引所(東証市場)」での調達
これは、2023年10月以降、日本で可能になった最も透明な調達方法です。
- 適用ケース:
- GX-ETSの目標達成(コンプライアンス)が主目的である場合。
- 調達コストの効率性・透明性を最優先する場合(価格が安い「省エネ」などを選べる)。
- 「コベネフィット」などの質(ストーリー)にはこだわらず、標準化されたクレジットを迅速に調達したい場合。
- 相対取引に伴う「価格交渉」や「契約交渉」の事務コストを削減したい場合。
実務上、多くの大手企業は、この両方のチャネルを使い分けています。「GX-ETS対応(大量・低コスト)」は東証で、「ESG報告・PR(少量・高付加価値)」は相対取引で、というハイブリッドな調達戦略が今後の主流となります。