この3つの要因が、実際の市場でどのように価格差を生み出しているのかを見ていきます。
事例1:国内「東証カーボン・クレジット市場」の価格差(2025年時点の傾向)
東証市場は、この「品質」と「需給」の違いが価格に明確に表れる好例です。
- 「省エネ」「再エネ(電力以外)」クレジット(削減系)
- 価格帯: 相対的に安価(例:3,000〜4,000円/トン)。
- 背景:
- 品質(供給コスト): プロジェクトの創出コストが比較的低い。
- 需給: 供給量が比較的多い。主な需要はGX-ETSのコンプライアンス目的であり、コスト効率が重視されるため、価格は一定範囲に収斂しやすい。
- 「森林」クレジット(除去系)
- 価格帯: プレミアム価格(例:10,000〜15,000円/トン)。
- 背景:
- 品質(供給コスト): 植林、森林管理、モニタリングに10年単位での多大なコストがかかるため、創出コスト自体が高い。
- 品質(種類): 市場で調達可能な「除去」クレジットである。
- 品質(コベネフィット): 「国内の森林保全」「生物多様性」といった強力なコベネフィット(ストーリー性)を持つ。
- 需給: 供給量が限られる一方、SBTネットゼロ対応(除去)やPR・マーケティング目的(コベネフィット)での「指名買い」需要が非常に強く、需給が逼迫しているため、価格が高騰しています。
事例2:国際VCMにおける「価格のスペクトラム」
国際市場では、この価格差はさらに顕著です。
- [低価格帯:数百円〜1,000円/トン]
- 対象: ヴィンテージが古い(例:2016年以前)途上国の再エネ(風力・水力)プロジェクト(削減系)。
- 背景: 「追加性」に深刻な疑義(クレジット収入がなくても、すでに発電事業として採算が取れている)があると見なされ、品質が低いと評価されます。「安い」という理由だけで調達すると、SBTには使えず、PRで使えば即座に「グリーンウォッシュ」と批判される、最もリスクの高いクレジット群です。
- [中価格帯:2,000円〜5,000円/トン]
- 対象: 森林保全(REDD+、削減系)や、コベネフィット認証(Gold Standard)を受けたクリーン・クックストーブ(省エネ・健康)プロジェクト。
- 背景: 「追加性」は認められるものの、「削減」系であること、またREDD+は「森林火災による永続性リスク」が指摘されることもあり、価格は中位に留まります。コベネフィット(SDGs貢献)を重視する企業に選好されます。
- [高価格帯:8,000円〜20,000円/トン]
- 対象: 植林・再植林(A/R、除去系)、バイオ炭(技術的除去)、マングローブ再生(ブルーカーボン、除去系)。
- 背景: SBTネットゼロ対応の「除去」クレジットであり、かつ「自然ベース(NBS)」として供給に限界があるため、世界的な需要が集中。価格は高騰傾向にあります。
- [超高価格帯:30,000円〜150,000円/トン]
- 対象: DACCS(直接空気回収)、BECCS(バイオマス発電+CCS)。「技術ベースの除去」。
- 背景: これは純粋に「創出コスト」を反映した価格です。現状、技術が未成熟で巨額の設備投資・運転コストがかかるため、クレジット単価も極めて高くなります。MicrosoftやAmazonなどが、将来の技術革新(コスト低下)を促す「先行投資(オフテイク契約)」として、この価格帯で購入しています。