この「削減 vs 除去」という機能的な違いは、実際の市場価格や企業の評価にどう反映されているのでしょうか。
J-クレジット市場(日本)における価格差
第3章で学んだ東証カーボン・クレジット市場は、この「種類」の違いが「価格」に反映される実例です。
J-クレジットは、創出方法(方法論)によって区分されています。
- 省エネルギー / 再エネ(電力以外) / 化石燃料代替: これらは主に「削減」クレジットに分類されます。
- 森林管理 / 植林: これらは「除去」クレジットに分類されます。
実際の東証市場の取引価格を見ると(2025年時点の傾向)、再エネや省エネ由来のクレジットが相対的に安価(例:3,000円/t-CO2前後)で取引される一方、「森林」由来のクレジットは、それらの数倍(例:10,000〜15,000円/t-CO2)という「プレミアム価格」で取引されています。
これは、市場参加者(企業)が、SBTネットゼロ対応やPR効果を見据え、「除去」クレジットに対してより高い価値を認めている明確な証拠です。
VCM(国際)における「コベネフィット」という第3の軸
国際市場では、「削減/除去」の軸に加えて、もう一つの重要な評価軸が存在します。それが「コベネフィット(Co-benefits:共通便益)」です。
コベネフィットとは、そのクレジットプロジェクトが、GHG削減・吸収という本来の目的に加え、どれだけ「追加的な(環境・社会的な)良い影響」をもたらしているか、という尺度です。
- コベネフィットの具体例:
- 生物多様性の保全(例:森林プロジェクトが絶滅危惧種の生息地を守る)
- 地域コミュニティ支援・雇用創出(例:途上国での植林事業が現地住民を雇用する)
- 健康・福祉の改善(例:高効率コンロ普及プロジェクトが、室内の煙による呼吸器疾患を減らす)
- **SDGs(持続可能な開発目標)**の他項目への貢献
例えば、国際認証基準である「Gold Standard (GS)」は、このコベネフィットの創出を認証の必須要件としており、高く評価されています。
大手企業がクレジットを調達する際、単に安い「削減」クレジットを選ぶと、「安易なオフセットで済ませている」というグリーンウォッシュ批判を受けやすくなります。しかし、「生物多様性保全にも貢献する森林保全(REDD+)クレジット」や、「途上国の女性の健康を守るクリーン・クックストーブのクレジット」を選ぶことは、その批判に対する有力な説明材料(ストーリー)となります。