カーボンクレジットを分類する上で、現在最も重要視されているのが、そのクレジットが「排出を回避した(削減した)」ものなのか、それとも「大気中からCO2を吸収した(除去した)」ものなのか、という区分です。
1. 削減(Avoidance / Reduction)クレジット
これは、「そのプロジェクトが実施されなければ排出されていたであろう温室効果ガス」を「回避」または「削減」した量を認証したものです。これは、大気中のCO2の「総量」を減らすものではなく、「将来の増加を防ぐ」タイプのクレジットです。
- 代表例:
- 再生可能エネルギー: 系統の電力(化石燃料火力など)を太陽光発電で代替し、その差分をクレジット化。
- 省エネルギー: 高効率ボイラーの導入により、燃料使用量を削減し、その差分をクレジット化。
- 森林保全(REDD+): 途上国などで、開発(伐採)の危機に瀕している森林を「保全」することで、伐採された場合に排出されていたであろうCO2を「回避」したもの。
現在、世界のカーボンクレジット市場(VCMおよびJ-クレジット)で流通している量の「大半」は、この「削減」クレジットです。
2. 除去(Removal)クレジット
これは、すでに大気中に存在するCO2を「物理的に吸収・除去」し、森林や地中などに「長期的に固定・貯留」した量を認証したものです。これは、大気中のCO2の「総量」を直接的に減らすことができる唯一の手段です。
- 代表例:
- 自然ベース(NBS): 植林、再植林、森林管理(成長による吸収増)、マングローブ再生(ブルーカーボン)など、生態系の力で吸収・固定する。
- 技術ベース: DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage:大気からの直接CO2回収・貯留)や、BECCS(Bioenergy with CCS:バイオマス発電とCO2回収・貯留)など、工学的技術で除去・貯留する。
なぜこの区分が決定的に重要なのか:SBTネットゼロスタンダード
この「削減」と「除去」の区分が決定的に重要な理由は、SBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)が定める「ネットゼロスタンダード」という国際ルールにあります。
SBTiは、企業が「ネットゼロ(Net-Zero)」を達成・主張するための厳格な基準を定めています。そのプロセスは以下の通りです。
- 自社での最大限の削減(Abatement): まず、バリューチェーン全体(Scope1, 2, 3)で90%〜95%の排出削減を、自社努力(省エネ、再エネ化など)により達成することが最優先で求められます。
- 残余排出量の中和(Neutralization): 1. を達成した上で、どうしても削減しきれない「残余排出量(Residual Emissions)」(通常5%〜10%)を中和します。
ここでの最重要ルールが、「2. の残余排出量の中和に利用できるのは、『除去(Removal)』クレジットのみである」という規定です。「削減(Avoidance)」クレジットは、この最終的なネットゼロ主張のためには使用できません。
よくある誤解:「SBT目標」と「クレジット」
非常に多く見られる誤解ですが、SBTが定める「短期・中期削減目標」(例:2030年までにScope1, 2を50%削減)の「達成」のために、カーボンクレジット(削減・除去を問わず)を使用することは一切認められていません。
目標達成は、あくまで自社およびサプライチェーンでの物理的な排出削減(Abatement)で実現する必要があります。「削減」クレジットは、SBTの枠組み上は、それらの目標達成とは「別枠」で、気候変動対策に更なる貢献を行う「BVCM(バリューチェーン外での緩和)」として購入・活用することが推奨されています。